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「おや、お帰りですか?

では、お気をつけて。またのご来店をお待ちしております」

マスターはいつものように、さわやかな声で見送ってくれる。


店を出れば、また、彼の数多の記憶の中に、埋もれてしまうだろう。

私のことも、『記憶は尊い』という彼の結論も……

私の答えは、やはり出ない。

毎年、思い出される娘の<願い>――
それをいくら叶えても、空っぽの家に、新しい思い出が生まれることは、もうないのだから。

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