チリリリン……
重いドアを押すと、三階まで吹き抜けの広い空間が開かれた。
テーブル席とカウンター。
三〇席はあるだろう。
だというのに、客はひとりもいないのだ。
「いらっしゃいませ」
ぼうぜんとしていた私に、カウンターから声がかかった。
見れば、メガネをかけた若い男が、銀のポットを抱えて微笑んでいる。
そうだ、彼がマスター。
何度もきているはずなのに、いつも初めて会う気がしてしまう。
「おひとり様でいらっしゃいますか? では、こちらのカウンター席はいかがでしょう?」
誘われるままに、私は彼の目の前に座った。