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「お客様、あなたは当店を探していたのです。だから、今日にしたのですよ」

にやりと笑った顔を見て、わたし、気がついちゃった。


そっか……ここがそうだったんだ……

ネットで知った秘密のお店。
どこにあるのか、誰も知らない。
噂では、クリスマスにだけ開くとか。

その店にたどり着けるのは、特別な思いを抱えた者だけ。
だからきっと、わたしなら見つけられると、そう思ってた。

わたしには、甘くて優しいとびきりの思い出がある。
でもそれは、嘘で飾った偽の記憶。
その心地よくも虚しい思い出をどうしたいのか、わたしの心は決まってる。

だけど、まさか喫茶店だなんて思いもしなかった。
想像していたのは、怪しい古本屋さんみたいなところ。
カビ臭くて、店主は五百年は生きていそうなおじいさんで……


だって、その秘密の場所は

『忘れたい記憶を買ってくれる店』

なのだから――

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