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「孤独? 孤独とは……」

検索しようとした手を止めて、マスターは片眉を上げ、私を流し見た。

「お待ちください、お客様。人様の心の中に私がいるなんて、それって、私の珈琲はすべてブレンドってことじゃありませんか?」

そんな疑問を真顔でぶつけてくる彼を、私は毎回、笑ってしまう。

「マスター、珈琲を入れているのはあなたです。客の私に聞かないでくださいよ」

そう言うと、彼は決まって不機嫌になる。だから私は続けて話すのだ。

「これは、マスター、あなたの純粋な記憶でしょう。

ただ、あなたは客の心を自分の心に取り込み、それをベースにしてしまう。記憶がないのではなく、ありすぎるのです。


あなたは自分のこと以上に他人の心を理解する、記憶のバリスタなんですよ」

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