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考えなしに頼んでしまうのは悪い癖だ。
珈琲店ならその店独自のブレンドがあり、それを一番の売りにしていると思い込んでいた。
けれど、ここ『スクラップ・カフェ』のマスターにとって、豆を混ぜ合わせ新しいテイストを作り出す行為は、許しがたいことなのだ。
「お客様、大声を出してしまい大変失礼いたしました。ですが――」
「はいはい、わかっていますよ」
私は穏やかに微笑み、頷いた。
バツが悪そうに言葉を濁したマスターは、カチャカチャとカウンター下でキーボードを叩いている。
「なるほど、空気を変えるにはBGMですか。ええっと……では、この場にふさわしい曲は……」
どうやら注文そっちのけで、<神様>と会話を始めたようだ。
では、じっくり考え、思い出そう。
ブレンドのないこの店で、私はいったい、何を頼んでいたのだろう。
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