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私は答えられず、いつも黙ってしまう。


「教えてください。お客様は、ご存じのはずです」

身を乗り出し、彼は私に答えを迫ってくる。

「だって、あなたも売ってくださらないじゃないですか。

売りにきたはずの、ご家族との思い出を」

私はカウンターの上で指を組んだ。
去年も同じやりとりをした。
こうして、面と向かって。

「いいえ。私はあなたの珈琲を、ただ飲みにきたのですよ」

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