「これは十年昔のオールドビーンズですが、味も香りもまったく変わることがないのです。
うーん、この香り……」
開いたボックスから、甘く苦い香りが漂ってきた。若干、小ぶりのその豆は、すでに煎られ、黒々と光っている。
マスターが豆を挽き始めると、香りはますます濃厚になり、私の胸底で薫り立った。
「いかがです? 若い息吹が広がる感じがしませんか? この独特の芳香は、この豆にしか出せないのです」
轢いた豆に湯を注ぎながら、マスターは懐かしそうに目を細めた。
「思い出しますねえ、この豆を仕入れた日のことを。
あの日も今宵と同じ、雪の降るクリスマスイヴでした……」