空想が彩る子ども時代の儚い記憶は、売るまでもなく時とともに忘れていくものだ。
なのに、あの子はまだ覚えている。
「記憶を売らなかったことは、わかっていました。この靴を残してきたことを、あの子はいまだに思い出しているのですから。
もし、あなたに売っていたら、私はいまここに、存在していませんよ」
この靴に秘めた<願い>があの子の心に広がる限り、私はあの家に帰るのだ。
何年も空っぽの思い出の家に。
マスターは口を尖らせたまま、首をひねっている。
考えて、考えて……
そして、納得した顔で私に言うのだ。